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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)1949号 判決 1965年8月04日

主文

原告の本件株主総会決議不存在確認の請求を棄却する。

原告の右決議取消請求を却下する。

訴訟費用(参加費用を含む)は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告。

(1)、一次的請求。

被告の昭和三八年五月四日の臨時株主総会における清算人関口愛子を解任し、関口昌三を清算人に選任する旨の決議および関口久雄を監査役に選任する旨の決議が存在しないことを確認する。

訴訟費用は被告参加人の負担とする。

(2)、二次的請求。

右決議を取消す。

訴訟費用は被告参加人の負担とする。

二、被告および参加人。

主文と同趣旨。

第二、一次的請求の原因。

一、被告は、昭和二年二月二六日に設立された発行済株式総数一万株の株式会社であり、原告は、八三三株三分の一の株式を有する株主である。

二、被告は、昭和二四年一一月二八日に解散し、関口伊三郎が清算人に就任したが、昭和三二年七月七日、同人は解任され、原告が清算人に就任し、現在に至つている。

三、ところが、被告の登記簿には、昭和三八年五月六日付で、請求の趣旨記載の決議がなされたとし、その旨の登記がなされているが、このような決議は存在しない。

四、被告の株主関口伊三郎の請求により、昭和三八年五月四日午後一時、大阪市西成区山王町一丁目一四番地の原告方において、原告を解任し後任清算人を選任する件および欠員監査役を選任する件を議案とする被告の臨時株主総会が開催された。

五、右総会においては、原告解任の件は否決され、監査役には関口ハナを選任する旨の決議がなされただけであり、請求の趣旨記載のような決議はなされていない。

六、もつとも、前記登記申請の付属書類の株主総会議事録によれば、同日午後三時から、同所において、被告の臨時株主総会が開催され、そこにおいて、請求の趣旨記載のとおりの決議がなされたことになつているが、このような総会も存在せず、従つて、右決議は、存在しない。

七、要するに、昭和三八年五月四日には、午後一時或は午後三時開催のいずれにせよ、請求の趣旨記載のとおりの総会決議は存在しないので、そのことの確認を求める次第である。

第三、一次的請求の原因に対する被告の認否および主張。

一、認否。

第一項は認める。

第二項は、そのうち、原告が昭和三八年五月四日以降被告の清算人であることは否認するが、その他は認める。

第三項は、登記手続の事実を認め、その他は否認する。

第四項は認める。

第五項は否認する。

第六項は認める。

二、主張

(1)、被告の清算人であつた原告は、被告の株主に対して、昭和三八年四月一七日付書面で、同年五月四日午後一時、大阪市西成区山王町一丁目一四番地の原告方において、被告の臨時株主総会を開催する旨の招集通知をし、同日定刻株主総会が開催された。

(2)、被告の株主名簿上の株主は、関口伊三郎四、五〇〇株、関口フジ五〇〇株、関口ハナ五〇〇株、原告五〇〇株、関口尚子五〇〇株、関口喜美子一、五〇〇株、関口リノ二、〇〇〇株となつているが、関口リノは、昭和三八年二月七日に死亡したので、その所有株式は、他の株主および関口照子の七名が共同相続している。

(3)、当日、右総会に出席した者は、関口フジ、関口ハナ、原告、関口尚子、および参加人の五名であつた。

(4)、参加人は、関口喜美子名義の株式について、当事者、申請人参加人、被申請人関口喜美子、同被告間の「被申請人関口喜美子は被申請人名義の別紙目録記載の株式について昭和三八年五月四日午後一時に召集された株主総会において株主としての権利を行使してはならない。申請人は別紙目録記載の株式について、右株主総会に出席して株主としての権利を行使することができる。被申請人株式会社関口本店は右株主総会において別紙目録記載の株式について申請人が株主としての権利を行使することを許さなければならない。」、別紙目録の記載「一、株式会社関口本店株式一、五〇〇株、内訳、百株券一五枚No.四六至No.六〇、(但し一株の金額一〇〇円、四〇円払込済)」という大阪地方裁判所の仮処分決定を得て出席した。

(5)、関口伊三郎は、右総会の議決権行使に関して、清算人である原告の議決権代理行使の勧誘に基づき、原告に議決権の代理行使を委任していたが、原告は、その受任を拒絶した。

(6)、関口伊三郎は、かような事態の発生にそなえて、原告が拒絶した場合の代理行使を参加人に委任していた。そこで、右総会において、参加人は、関口伊三郎の議決権を代理行使する旨申し出たところ、原告は、之を認めないと主張した。

(7)、かくして、右総会は、紛糾し、結局解決がつかず、参加人を除く原告ら四人は、関口伊三郎の代理人による出席を認めず、参加人は、この出席を主張して譲らなかつた。そこで、双方は、それぞれの主張のままで行動することとし、議事録を作成するにあたつても、双方の言い分を並べて書くことに決め、原告ら四名は、現実の出席者だけで総会が開催されたものとし、第一号議案清算人解任の件は否決、第二号議案監査役選任の件については、関口ハナを選任する旨の決議があつたとし、参加人は、関口伊三郎の出席もあつたとし、第一号議案については、原告を解任する、第二号議案については、関口久雄を監査役に選任する旨の決議があつたとした。

(8)、被告会社には、議決権行使の代理人を株主に限定する定款の規定はあるが、参加人は、仮処分決定により、関口喜美子名義の株式について、株主権の行使が認められているのであるから、関口伊三郎の代理人となる資格を有し、右総会においては、請求の趣旨記載のとおりの決議がなされたものである。

第四、被告の主張に対する原告の認否および答弁。

第一項は認める。

第二項は、そのうち、関口照子が関口リノ所有の株式を共同相続したことは否認するが、その他は認める。関口照子は、戸籍上はリノの子となつているが、実際は関口フジの子であり、リノの共同相続人ではない。

第三ないし第六項は認める。

第八項は、代理人を株主に限定する定款の規定の存在のみ認めるが、その他は否認する。

第五、参加人の主張とこれに対する原告の主張。

一、参加の理由。

(1)、参加人は、被告の昭和三八年五月四日開催の臨時株主総会の決議により、被告の代表者たる清算人に選任され、直ちに就任承諾し、同年五月六日、右清算人就任登記をしたものである。

(2)、ところが、原告の申請に基づく昭和三八年五月二八日付仮処分決定のため、現在参加人の職務執行が停止されている。そして、その本案訴訟である本件訴訟において、原告勝訴となるときは、被告の清算人たる地位を失い、その権利を害されることとなるので、民事訴訟法第七一条前段により、当事者として、本件訴訟に参加する。

(3)、かりに参加人の右参加が認められないとしても、同法第六四条による参加の効力はある。

二、一次的請求の原因に対する認否。

第一項のうち、原告が八三三株三分一の株式を有する株主であることを否認するほかは、被告の認否と同じ。

三、参加人の主張。

(1)、原告は被告の株主ではない。被告は、亡関口伊太郎が、明治以来の精肉販売、料理営業の個人営業を税務対策の手段として、会社組織に改めたものである。設立に際しては、形式上株主を七名以上必要とするところから、自分の外に妻リノ、長男伊三郎、次男信一、長女フジ、次女ハナ、三女愛子、四女尚子の八名の名義を使用した。関口伊太郎を除く名義株主は、株金の払込をしたこともなく、株主としての権利を有していなかつた。関口伊太郎は、昭和一四年一二月一八日死亡し、長男伊三郎が家督相続し、被告の全株式を所有することとなり、今日に至つているものである。

(2)、前掲第三記載の被告の主張全部を援用し、なお、つぎのとおり主張する。

(イ)、本件株主総会の会議の目的は、第一号議案清算人の解任並びに後任清算人の選任、第二号議案欠員監査役の選任であつた。

(ロ)、本件株主総会の招集通知の中には、「御出席お差支の向は定款第二一条に基き、当社株主を代理人に御選任され、同封委任状用紙に御記名御捺印の上議案に対する議決権の御行使方お願いします。」と書かれ、委任状が同封されていた。

(ハ)、参加人は、本件株主総会において、参加人の株数と関口伊三郎の株数との合計の絶対的多数で、請求の趣旨記載のとおりの決議が成立したと主張した。

(ニ)、参加人は、自己の主張する右決議が有効であるとし、自ら清算人に就任し、つぎに関口久雄も監査役に就任することを承諾したので、その旨の変更登記をしようとし、司法書士に相談したところ、本件のような議事の経過をそのまま記録した議事録では、到底法務局で受理されないだろうとのことであつたから、書式により、登記用の議事録を自ら作成し、その旨の登記をしたのである。

(3)、既に述べたように、被告の全株式は、関口伊三郎一人が所有するものであるから、原告が伊三郎の議決権代理行使を拒絶する以上、同人より参加人に対する委任の効力により本件株主総会は参加人の意思表明による決議が成立すればよいのであり、結局、本件決議は、伊三郎の決議として有効である。

(4)、かりに、右主張が失当としても、株主総会の決議の存否は、議事録の記載によつて決められるものではなく、現実に行われた事実を法律的に評価して決められるべきものである。そうすると、本件株主総会においては、各議案について、各出席者の意思は明確に表示されているから、参加人主張のとおりの決議が成立している。

(5)、なお、株主総会における代理人を株主に限定している被告会社の定款の規定は、商法第二三九条第三項の規定に違反し、無効である。

四、参加に対する原告の主張。

(1)、参加人は、民事訴訟法第七一条前段の規定により当事者参加の申立をしている。そして、その求める裁判は、「原告の請求を棄却する」ことにあるので、当事者の一方たる原告を相手方とする参加申立であることが明らかである。

(2)、本件においては、被告の清算人の職務代行者たる秋山弁護士が、被告を代表して応訴しており、商法第二五二条の準用される本訴において、被告適格を有する者は、被告に限られ、被告適格なき参加人が、原告を相手方として参加の申立をすることは許されない。

第六、二次的請求に関する当事者の主張。

一、請求の原因。

かりに本件株主総会の決議が存在するとしても、その総会は、株主に対する招集通知がされていないので、取り消されるべきものである。

二、右に対する被告および参加人の認否。

全部否認する。

第七、証拠(省略)

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